中国の知的財産に関する法律では民法上の損害賠償、刑法上の刑事罰以外に行政上の罰金も定められています。今回は事例をもって中国著作権保護における水際対策の中の行政罰について紹介させて頂きたいと思います。
1.事件の経緯
今回の事件は中国深圳の笋崗税関で起きた事件です。当事者である湖南傲星隆貿易有限会社(以下当事者という)は第三者である通関会社に委託し、2022年5月18日にリュックサック等の9項目の貨物について笋崗税関に一般貿易方式で輸出申告をしました。目的地はイギリスでした。
笋崗税関の調査によると、輸出貨物の中、40個のリュックサックに「tik tok(中国版LOGO」、65個のリュックサックには「FORTNITE」の商標、50個のリュックサックには「DISNEY」の標識、39着のキッズ洋服には「FORTNITE」の商標がついており、その総額は13151.18元でした。
2.権利者からの知的財産保護の申請
北京微播視界科技有限会社は上記の40個のリュックサックについて既に税関に登録していた「tik tok(中国版)LOGO」の著作権を侵害したと主張し、エピックゲームズ社及びディズニー社もそれぞれ税関に登録している商標権を侵害していると主張し、三社とも税関に知的財産に関する保護措置を申請しました。
3.中国税関の判断
調査の結果、税関は当事者の権利者の許可を得ず、他人の商標がついている貨物を輸出しようとする行為は商標権及び著作権侵害であると判断しました。また、「中華人民共和国税関法」(以下税関法という)91条、「中華人民共和国税関行政罰実施条例」(以下税関行政罰実施条例という)25条1項に基づいて「上記の侵害貨物を没収し、1973元の罰金」を下しました。
4.中国税関法及び税関行政罰実施条例の定め
では、中国の税関法ではどのように定めているかを見てみたいと思います。
税関法91条では「本法の規定に違反し、中華人民共和国の法律、行政法規が保護する知的財産に関する貨物を輸出入する者に対し、税関は法に依り侵害貨物を没収し、罰金を処することができる;犯罪を構成する場合には刑事責任を追及することができる」と定めています。
税関行政罰実施条例25条1項では「中華人民共和国の法律、行政法規が保護する知的財産に関する貨物を輸出入する者に対し、侵害貨物を没収し、且つ貨物価格の30%以下の罰金を処することができる;犯罪を構成する場合には刑事責任を追及することができる。」と定められています。
5.本件における行政罰金の計算方法
30%の行政罰金の定めについてはこれ以上の定めがありません。税関の裁量によるものとなります。おそらくは当事者の行為の侵害程度になると思います。例えば、侵害の数量、偽造の有無、虚偽の申告、証拠隠滅等の有無又は程度になると思いますが詳しい尺度はありません。本件では30%の半分である15%の罰金となっています(13151.18x15%=1972.6≈1973)。
6.最後に
本件から見ると、中国の行政罰金の計算方法などにまだ不十分な部分もありますが、水際対策等を通じて著作権の保護、商標権の保護をしようとする努力は十分に見えます。現在中国ではまだ海賊版が多く存在している以上、しばらくの間は権利者の救済、侵害防止のために各法律の中に懲罰的損害賠償、行政罰金、刑事罰のような罰に重きを置く法制度になりそうです。
(本記事は「中華人民共和国笋崗税関の湖南傲星隆貿易有限会社が「tik tok(中国版)LOGO」の著作権等を侵害した商品を輸出した事件に関する行政処罰決定書」に基づいて作成しました。)
(日本アイアール株式会社 F・K)